脳腸相関④:乳酸菌が脳腸相関に及ぼす影響(前編)


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プロバイオティクスの可能性

 ストレス関連疾患として知られる過敏性腸症候群(IBS)の病態研究などの進展により、ストレスによる心身の不調を解き明かす鍵として、脳-腸-腸内細菌相関が注目されるようになりました。
 一方で、ストレスによる心身の不調は、健康な人にも日常的に起こりうることです。
 では、健康な人に起こりうるストレスがかかる状況とはどのような場面があるでしょうか。例えば、重要な会議で説明をする、習っている楽器の演奏会で発表するなど、期日に向けた準備の中で、焦りや不安といった一時的な精神的ストレスを感じる場面に遭遇したことはないでしょうか。ここぞという場面で、一時的なストレスによる心身の不調によって最高のパフォーマンスが発揮できなければ、その人自身の生活の質(QOL)の低下にもつながります。ストレス社会の現代において、ストレスを避けて通ることは難しく、私たちはストレスとうまく付き合っていかなければなりません。

 従来、ストレスで起こる不調への対処は、脳を起点として考えることが一般的でしたが、脳腸相関研究の進展により、日常的に起こりうる一時的なストレスに対し、腸を起点としたアプローチが注目されつつあります。その中で腸にはたらきかけるプロバイオティクスの可能性が見出されてきています。

L.パラカゼイ・シロタ株が一時的なストレスを緩和する

 脳腸相関研究でプロバイオティクスが注目されるなか、生きて腸にとどく「L.パラカゼイ・シロタ株」のストレスに対する効果を新たに追究しました。

 ストレスの程度は、年齢や生活環境などによって差が出てしまいます。そのため、健康な人におけるプロバイオティクスのストレス緩和作用を客観的に評価するには、これらの影響をできるだけ揃える必要がありました。そこで選ばれたのが、医学部の4年生です。6年制の医学部では、4年生から5年生への進級をかけた学術試験が行われ、試験前の学生は非常にストレスがかかります。試験では、このような学術試験を控えた学生に協力してもらいました。


試験前の学生の写真

 試験は、1本100mlにL.パラカゼイ・シロタ株を1000億個含む飲料を飲用するグループと、味や外見は同じでL.パラカゼイ・シロタ株を含まない飲料(プラセボ)を飲むグループに分け、学術試験の8週間前から毎日1本飲んでもらいました。
 そして、アンケート調査による主観的評価と生化学的指標を用いた客観的評価のそれぞれの角度からL.パラカゼイ・シロタ株飲用によるストレス状態の変化を評価しました。

 解析の結果、視覚的アナログ尺度(VAS)という手法を用いたアンケート調査によって主観的に評価したストレスの体感が、L.パラカゼイ・シロタ株飲用群はプラセボ飲用群に比べて有意に低い値を示しました(図1)。
 さらに、客観的評価として、ストレス下で増加することが報告されている唾液中のコルチゾール濃度を測定したところ、プラセボ飲用群は学術試験が近づくにつれて濃度が上昇しましたが、L.パラカゼイ・シロタ株飲用群では上昇が有意に抑制されました(図2)。

L.パラカゼイ・シロタ株飲用後のストレスの体感の変化のグラフ
図1:ストレスの体感の変化1)
L.パラカゼイ・シロタ株飲用後の唾液コルチゾール濃度低下のグラフ
図2:唾液コルチゾール濃度の変化2)

 本試験によって、L.パラカゼイ・シロタ株を1000億個含む飲料を継続飲用することで、一時的な精神的ストレス状況下でのストレスを緩和することが認められました。
 このように健康な人でも起こりうるストレスに対し、食品として手軽に利用できるプロバイオティクスの効果が客観的に確認されたこの研究成果は、プロバイオティクスの可能性を見出した研究の一つと言えます。

 ※本ページに記載のL.パラカゼイ・シロタ株の旧名称は、L.カゼイ・シロタ株です。

【参考資料】
 1) Kato-Kataoka A et al. Fermented Milk Containing Lactobacillus casei Strain Shirota Preserves the Diversity of the Gut Microbiota and Relieves Abdominal Dysfunction in Healthy Medical Students Exposed to Academic Stress. Appl Environ Microbiol. 2016;82(12):3649-58.
 2) Takada M et al. Probiotic Lactobacillus casei strain Shirota relieves stress-associated symptoms by modulating the gut-brain interaction in human and animal models. Neurogastroenterol Motil. 2016;28(7):1027-36.