腸内フローラ③:ヤクルトの取り組み(前編)

腸内フローラ解析技術とヤクルトの取り組みについて

 腸内フローラの解析には、長年培養法が用いられてきました。生きた菌を扱う培養法は、個々の腸内細菌の性質や働きをより深く理解するために必要不可欠な技術です。しかし腸内フローラの構成全体をとらえるには解析能力の限界があり、その後、遺伝子の情報を利用して腸内細菌を同定・分類する技術が開発されました。メタゲノム解析法は、この技術を発展させたもので、こうした新しい技術の登場により、ヒトの健康や疾病に関わるさまざまな機能遺伝子を腸内フローラがもつことや、腸内フローラを構成する菌の総数は1,000種類に上ることなどが明らかとなり、メタゲノム解析法が腸内フローラ研究を牽引するようになりました。しかしメタゲノム解析法も万能ではありません。この方法では、腸内フローラ中の数少ないマイナーな菌を解析することはできません。
 ヤクルトは予防医学の見地から、腸内フローラ研究を活動の柱とし、腸内フローラをより正確に把握して人々の健康との関わりを解き明かそうと長年取り組んできました。そして2007(平成19)年には、独自の腸内フローラ解析システム「YIF-SCAN®」を開発しました。

「YIF-SCAN®」とは

 「YIF-SCAN®」(Yakult Intestinal Flora-Scan)は、個々の腸内細菌が持つ特徴的な遺伝子配列(RNAやDNA)を目印に腸内フローラを解析する、ヤクルトが独自に開発した腸内フローラ自動解析システムです。
 この「YIF-SCAN®」により、従来の寒天培地を用いた解析方法(培養法)に比べ、格段に迅速・簡便・高精度な腸内フローラ解析が可能となりました。

YIF-SCAN<sup>®</sup>
「YIF-SCAN®」のラボオートメーションシステム

少数派の菌まで解析する「YIF-SCAN®

 「YIF-SCAN®」では、迅速・簡便・高精度に加えて、現在主流のメタゲノム解析では読み取れない「少数派の菌」までも正確に検出・解析することができます。なぜ、少数派の菌にこだわるのかというと、健康維持・増進や疾病に関与する腸内細菌のバランスを適正に保つことが重要であり、このバランスを見るためには、菌数の多い・少ないに関わらず腸内フローラを構成する菌を把握することが大切だからです。
 例えば日和見菌のように、宿主であるヒトの抵抗力が弱まったときに病気を引き起こすような菌は、腸内フローラ全体の構成からすると非常に数の少ないマイナーな菌です。一方の多数派の菌は、約100億個も存在しますが、そういった多数派の菌だけを対象にするメタゲノム解析では、1,000個程度の少数派の菌は検出限界未満となり把握できません。数が多いからヒトへの影響が大きく、数が少ないから影響がないとは限らないのです。
 このことから、「YIF-SCAN®」は、一定量の腸内フローラの中に、どのような種類の腸内細菌がどのような数で住み分けしているかを、量的に比較できるよう開発されました。

「YIF-SCAN®」で確認。健康な日本人の年代別の腸内フローラの変化

 この「YIF-SCAN®」によって導きだされた解析結果の一つを紹介します。
 これは、生後1日目から高齢者までの日本人1,507名の便検体を「YIF-SCAN®」により解析し、腸内フローラの変遷を表したものです。この結果から、ヒトの腸内フローラは、生後間もない頃は、大腸菌群やブドウ球菌のような通性嫌気性菌(酸素があってもなくても増殖できる菌)が優勢ですが、生まれて半年ほどでビフィズス菌が最優勢の腸内フローラへと変化することが分かりました。

年代毎の腸内フローラの差異

 

 また3歳頃には、大人とほぼ同等の腸内フローラとなることも分かり、加齢とともに、ビフィズス菌が減少することも確認されました。ヤクルトは、健康なヒトの腸内フローラの基本的なデータの蓄積に努め、腸内フローラの健康との関わりについて解明したいと考えています。


【出典】
・Applied and Environmental Microbiology 73, 32-39 (2007)
・Applied and Environmental Microbiology 75, 1961-1969 (2009)
・腸内細菌学雑誌 29, 9-18 (2015)