身近な感染症:ノロウイルス編②


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高齢者は要注意 -ノロウイルス感染性胃腸炎における高齢者のリスク-

 ノロウイルス感染性胃腸炎は幅広い年齢層で感染がみられますが、中でも高齢者では注意が必要であり、予防を徹底することが求められます。高齢者では、加齢に伴いさまざまな身体機能が低下しますが、食べ物をうまく飲み込むことができなくなることもその一つです。そのため、ノロウイルスに感染して、その主症状である嘔吐を発症すると、嘔吐物の誤嚥から誤嚥性肺炎という合併症を起こす危険性が高まります。また、もともと体内水分量が少ない高齢者では下痢や嘔吐による脱水症状も起こりやすくなります。さらに、高齢者の場合、感染による発熱により意識が低下し、転倒の危険性が高まるといわれています。
 また、ノロウイルスは感染力が強いため、感染者を介して二次感染しやすく、集団発生が起こりやすいことも知られています。施設間の比較においても、高齢者施設は、抵抗力が弱く感染リスクの高い高齢者が集団で生活するため、例年、ノロウイルスによる集団発生の件数が多いことが報告されています。

要介護高齢者のイラスト
高齢者におけるノロウイルス感染性胃腸炎のリスクの図

L.カゼイ・シロタ株を活用した介護老人保健施設での感染症対策

 順天堂大学では、介護老人保健施設入所者の感染症リスク低減のためにプロバイオティクスであるL.カゼイ・シロタ株を含む飲料の利用を検討していましたが、その過程で、試験期間中に集団発生したノロウイルスによる感染性胃腸炎に対するL.カゼイ・シロタ株飲料の有効性が明らかとなりました1)
 この試験は首都圏の介護老人保健施設に入所する高齢者77名(平均年齢84歳)を対象に行われたもので、飲用群(39名)と非飲用群(38名)の2つのグループに分け、飲用群にはL.カゼイ・シロタ株飲料を1日1本ずつ、10月初めから毎日3ヶ月間飲用してもらい、感染症の発症状況と病状の程度を調べました。
 また試験期間中、毎日の診療記録から両群の健康状態を調べ、嘔吐や下痢の発症の認められた10名については、感染の原因がノロウイルスかどうかを検出キットで確認しました。

 
 感染性胃腸炎の発症状況についてはL.カゼイ・シロタ株飲料の飲用の有無で差はみられませんでしたが、発症後の症状の程度について興味深い結果が得られました。すなわち、L.カゼイ・シロタ株飲料飲用群では12月中の37℃以上の発熱日数は平均1.5日、非飲用群では2.9日で、飲んでいた方のほうが短かったのです。この差は、統計学的に意味のある差であることが確認されています。
 以上の結果から、L.カゼイ・シロタ株飲料の継続飲用によりノロウイルス感染性胃腸炎の発症後の発熱が緩和されることがわかりました。

ノロウイルス感染性胃腸炎発症後の発熱日数に対するL.カゼイ・シロタ株の作用

 発熱は意識低下に伴う転倒の発生や誤嚥性肺炎を引き起こすなど、重症化を招く恐れがあるため、L.カゼイ・シロタ株飲料の継続飲用が発熱を短期間に抑えて回復を早めたことはとても意味のあることだと考えられます。
 L.カゼイ・シロタ株摂取による発熱症状緩和の詳細なメカニズムは不明ですが、L.カゼイ・シロタ株の持つ腸内環境改善作用や免疫調節作用が、高齢者の抵抗力を高めたためと考えられます。

 ※本ページに記載のL.カゼイ・シロタ株は、2020年4月以降、L.パラカゼイ・シロタ株に分類されています。

【参考文献】
 1) S. Nagata et al. Effect of the continuous intake of probiotic-fermented milk containing Lactobacillus casei strain Shirota on fever in a mass outbreak of norovirus gastroenteritis and the faecal microflora in a health service facility for the aged. Br. J. Nutr. 2011, 106(4), 549-556.