脳腸相関⑤:乳酸菌が脳腸相関に及ぼす影響(後編)
ストレスと睡眠の質
ストレスは、「睡眠の質」を低下させる要因の一つとして知られており、ストレス社会と言われる現代において、睡眠障害も大きな社会問題となっています。
睡眠は体の休息だけでなく、心の休息にも欠かせません。心身の健康のために、睡眠時間を十分に確保することはもちろん大事ですが、より重要なのが「睡眠の質」だと言われています。
睡眠の質は脳波で分かる
睡眠の質を客観的に把握する方法に脳波測定があります。脳波は脳の電気的な活動をとらえたもので、波長の長さによって4つ(ベータ波、アルファ波、シータ波、デルタ波)に分類され(図1)、波形によって、覚醒と睡眠、眠りの深さを知ることができます。
また睡眠は、レム睡眠とノンレム睡眠で構成されています。レム睡眠は、眠っていても眼球が動いている眠りで、一方のノンレム睡眠は眼球が動かない、ぐっすり眠っている状態を言います。質の良い睡眠には、このレム睡眠とノンレム睡眠の周期的なリズムが大事です(図2)。さらに、入眠直後のノンレム睡眠で、最も深い眠りの時間量(熟眠時間)と、この時に現れる波長の長い脳波である「デルタ波」の量(デルタパワー)は睡眠の質を決めると言われ、研究の評価に利用されています。
L.カゼイ・シロタ株は睡眠の質を維持、向上させる
前話では、一時的な精神的ストレス状況下にある医学部生にL.カゼイ・シロタ株を1000億個含む飲料を継続飲用してもらったところ、ストレスが緩和されたという研究報告をご紹介しました。このストレス調査と同様に、一時的なストレス状況下にある医学部生を対象に、L.カゼイ・シロタ株摂取による睡眠状態への影響について調べました。
試験は、学生を1本100mlにL.カゼイ・シロタ株を1000億個含む飲料を飲むグループと味や外見は同じでL.カゼイ・シロタ株を含まない飲料(プラセボ)を飲むグループに分け、学術試験の8週間前から試験終了後3週間まで毎日飲んでもらいました。
客観的な評価として、睡眠中の脳波を測定し、最も深く眠れているノンレムステージ3の熟眠時間を解析すると、プラセボ群は試験が近づくにつれ熟眠時間が悪化しますが、L.カゼイ・シロタ株飲用群では良好な状態が保たれていました(図3)。
また、プラセボ群と比べて、L.カゼイ・シロタ株飲用群では脳波の解析で深い睡眠を示すデルタパワーが高まり、熟眠度が向上したことが分かりました(図4)。
さらに、睡眠の体感について調査票を用いて解析した結果、L.カゼイ・シロタ株飲用群では、試験直後の起床時眠気スコアが有意に改善されており、すっきりとした目覚めへと変化したことが分かりました(図5)。
本試験によって、L.カゼイ・シロタ株を1本100mlに1000億個含む飲料を継続飲用することで、一時的な精神的ストレス状況下における睡眠の質を向上することが認められました。
まとめ
ストレスは、私たちの体と心にさまざまな不調をもたらし、生活の質の低下をもたらします。しかし、ストレスは排除したくとも避けて通ることはできません。
研究の進展により、ストレスによる心身の不調が脳腸相関によって説明できるようなり、腸を整えることが、ストレスを緩和し、体の不調の改善につながる可能性が見えてきました。そして、この度、「L.カゼイ・シロタ株」に、健康な人の一時的なストレスを緩和し、睡眠の質を向上する新たな働きが確認され、ストレスによる不調の改善に役立つ可能性が見出されました。
ストレスとうまく付き合う手段はさまざまですが、腸をケアする観点から食生活に手軽に取り入れることのできるプロバイオティクス、L.カゼイ・シロタ株を利用してみてはいかがでしょうか。
※本ページに記載のL.カゼイ・シロタ株は、2020年4月以降、L.パラカゼイ・シロタ株に分類されています。
【参考文献】
1) M. Takada et al. Beneficial effects of Lactobacillus casei strain Shirota on academic stress-induced sleep disturbance in healthy adults: a double-blind, randomised, placebo-controlled trial. Beneficial Microbes. 2017, 8(2), 153-162.