腸内フローラ①:注目の腸内フローラ研究

腸内フローラとは何か?

 ヒトの消化管内には、およそ1,000種類・約百兆個、重さにして約1kgの細菌が生息し、複雑な微生物生態系を構築しています。この微生物群集は、びっしりと腸内に生息している様相から植物の群れ・叢(くさむら)に例え、「腸内フローラ」(または腸内細菌叢)と呼ばれています。
 腸内フローラは、宿主の生理状態(年齢など)や食習慣の影響を受け変化し、また一人ひとり異なることなどが明らかにされています。腸内フローラはヒトに対しさまざまな生理作用をもたらし、有用な作用として、病原菌の定着阻害、免疫の調節、ビタミンの産生などがある一方で、有害な作用として、腐敗産物や発がん物質の産生、各種疾患への関与が知られています。

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糞便中の細菌の多重染色画像

なぜ、今、腸内フローラが注目されているのか?

 腸内フローラ研究は、1681年にオランダの科学者レーウェンフックが、顕微鏡で糞便中の菌を観察したことに始まります。その後、20世紀後半に、腸内細菌を体外に取り出して培養する技術が確立し、腸内フローラの正体が徐々に明らかになりました。しかし、腸内フローラ研究が大きく進展するのは21世紀になってからで、アメリカの国立衛生研究所(NIH)が主導した「ヒトマイクロバイオームプロジェクト」(HMP)がその契機となりました。

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 アメリカでは、1990年から実施した国家プロジェクト「ヒトゲノム計画(ヒトの遺伝子解析)」が2003年に終了し、次にヒトと共生するすべての微生物群のゲノム情報(マイクロバイオーム)に解析範囲を広げました。共生微生物の大部分は腸内に生息し、ヒトの生理機能と密接に関わっていることから、HMPでは、腸内フローラに注目、それらを種類ごとに分けるのではなく、ひとまとめにしてDNAを収集し、その配列を大量に決定するメタゲノム解析法を採用しました。多種多様な微生物の集団を、1つの固まり・生物(マイクロバイオーム)としてとらえ解析したのです。2012年に第1期の解析が完了し、健康なヒトの腸内フローラ構成が初めて明らかにされました。
 このような解析技術の飛躍的な進歩は、世界の多くの研究者が腸内フローラ研究に取り組むきっかけとなり、それが、腸内フローラのヒトの健康との関わりに対する関心を一気に高めたのです。昨今の腸内フローラブームは、このような学術的な背景が大きいと考えられます。

解き明かされ始めた腸内フローラの神秘

 最近の報告例に、早稲田大学の服部(はっとり) 正平(まさひら)教授らの研究グループによる、106名の日本人の腸内フローラの大規模なメタゲノム解析結果があります。服部教授らは、日本人のデータを欧米や中国などの海外11か国のデータと比較しました。その結果、日本人の腸内フローラには、ビフィズス菌やブラウティア菌(C. コッコイデス グループに属する菌)などが多いことや、日本人の約90%が海苔(のり)やワカメのような多糖類を分解する酵素遺伝子を腸内フローラに保有しているのに対し、他の11か国ではそのような遺伝子の保有率が15%以下であったなどの違いが明らかになりました。このように、日本を含む世界のさまざまな研究者によって、人々の健康と腸内フローラの関わりをより詳細に理解するための基礎データが蓄積されつつあるのです。

【出典】
・Nature, 486, p207-214 (2012)
・DNA Research, 23(2), p125-133 (2016)