健腸長寿⑦:プロバイオティクスの臨床応用(前編)

短腸症とは

 生きた微生物の力を健康の維持・増進に役立てようとする考えから生まれたプロバイオティクス。今や、医療現場にも活躍の場を広げています。小児医療の現場で、重度な障害と戦った女の子の話を紹介しましょう。

 女の子は母親の胎内にいたとき、腸が正常に形成されておらず、穴や癒着が多数ある危険な状態であることがわかりました。担当医は、帝王切開で女の子を母体から取り出し、すぐに腸を切除する大手術を行いました。女の子は一命をとりとめたものの、腸はたった25cmになってしまいました。腸は、外科手術による切除など通常より極端に短くなると、栄養状態の悪化などさまざまな症状を引き起こします。これを「短腸症候群(短腸症)」といいます。短腸症の患者さんは、重度の腸炎や敗血症(血液中に菌が侵入して起こる重い感染症)に頻繁にかかります。女の子も1歳4か月の頃から腸炎や敗血症を繰り返し、そのたびに高熱を出して苦しんでいました。3歳を過ぎても、身長や体重は標準を大きく下回ったままでした。

短腸症の女の子の感染症との闘い。そのときの腸内フローラバランスは?

 女の子が腸炎や敗血症を繰り返した背後には、慢性的な栄養不足を補うために行っていた点滴も影響したと考えられます。血管から栄養を入れることは、手術で残された腸を使わずに栄養素を摂ることにつながり、食べ物を消化・吸収する腸本来の働きを衰えさせる結果となりました。それが腸の動きを悪くして、腸内環境が悪化し、ガスの滞留やひどい腸炎が起こりやすくなったと考えられるのです。栄養点滴の力テ一テルは長期間、血管に挿したままにしておくため、雑菌が血液に侵入しやすく、敗血症の危険性を高めます。また、敗血症は、弱った腸壁を腸内細菌が通りぬけて血液に侵入する場合でもおこります。女の子は常に感染症の危険と隣り合わせの状態だったのです。

 女の子は、手術のダメージや敗血症など、感染症の治療で頻繁に投与された抗菌薬により、腸内フローラが乱れた状態でした。腸内フローラは、抗菌薬の投与を終え、しばらくすれば元の状態に回復しますが、女の子の場合は長期にわたってくり返し抗菌薬が使用されていたため、腸内フローラは完全に破綻した状態だったのです。女の子の便を調べると、健康な子どもで優勢なはずのビフィズス菌はごくわずかで、有害菌のカンジタが最も多く検出されたのです。

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感染症に立ち向かうため、医師が選んだ方法とは

 担当医は、抗菌薬の投与と腸内フローラの破綻という、女の子に起こっている悪循環を断ち切るためには、まず腸内環境を良くすることから始めなければと考えました。有害菌を排除する治療だけでなく、女の子の味方になってくれる有用菌を増やす必要があると気づいたのです。

 担当医が選択したのは、プロバイオティクスとしてよく知られた「L. カゼイ・シロタ株」と「B.ブレーベ・ヤクルト株」です。抵抗力の落ちている病気のお子さんに投与するのですから、何より安全でなければなりません。大勢の人での長年にわたる飲用経験の中で、これらの菌に有害事象がないことに加え、生きて腸に到達すること、確かな効果が科学的に証明されていることが評価されたのです。これらの菌が選ばれたのは、プロバイオティクスの条件を全て満たしていることが決め手となったのです。

 こうして女の子が3歳4か月の頃、これらのプロバイオティクスを、有用菌のエサとなる「ガラクトオリゴ糖」と一緒に投与する試みが始まりました。この試みが、女の子の状態を著しく改善させることにつながっていったのです。

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