菌の図鑑

私たちのくらしの中で息づく、菌たちの素顔を覗いてみませんか?

腸内フローラにおける未知菌探索の取り組みーヤクルト中央研究所編ー

未知の腸内細菌

 これは、ヒトの大便を爪楊枝の先でほんのちょっと取ってスライドグラスに塗りつけ、染色した後に光学顕微鏡で見たものです。“大便=食べ物のかす”というイメージが強いと思いますが、この写真からも腸内には多量の細菌が生息していることがわかります。
 ではその種類は一体どのくらいでしょうか?
 近年の分子生物学的研究手法の発展によって、ヒトの腸内には千種類に及ぶ細菌が住みついていることが明らかになりました。それと同時に、その大半が今までに分離されたことのない「未知の菌」であることが分かりました。

培養は不必要?

 これら腸内細菌の役割を研究するには、単一菌種の分離・培養過程を経ずに、微生物の集団からゲノムDNAを調製し、そのまま直接に解析する手法であるメタゲノミクス※1が有効で盛んに行われるようになりました。
 しかしピロリ菌の例を出すまでもなく、単一菌種として分離・培養できれば、より詳細な解析研究が可能となります。
 ピロリ菌の存在は100年以上前から知られていましたが、1983年に初めて分離培養に成功したことによって飛躍的に研究が進み、今では胃がんの一因として注目されるようになりました。

チャレンジ

 ヤクルト中央研究所では、「腸内フローラの構造・機能をより深く解析するために、未知の腸内フローラ構成菌を分離・同定・収集する」という研究に取り組んでいます。2008年から2010年までの3年間に、世界的にはヒト腸内細菌として24菌種が新たに発見されていますが、そのうちの15種がヤクルト中央研究所によるものです。現在これらの菌のゲノム解析が「ヒトマイクロバイオーム・プロジェクト※2」の中で行われています。ゲノム解析結果と「生きた菌」の諸性状との対応によって、腸内フローラの成り立ちや健康・疾病との関連がより鮮明になることが期待されます。ここではヤクルト中央研究所で発見された「未知であった」菌を紹介します。

※1 メタゲノミクス : 従来の純粋培養により単一菌種を分離して研究するのではなく、微生物の集団からゲノムDNAを調製し、そのまま直接解析する手法。メタゲノム解析により、従来の方法では困難であった難培養菌のゲノム情報が入手可能となった。メタゲノム解析は環境中に埋没する膨大な数の未知の細菌、未知の遺伝子を解明する手法として期待されている。

※2 ヒトマイクロバイオーム・プロジェクト : アメリカ国立衛生研究所(NIH)で始められたプロジェクト研究で、ヒトの健康や病気との関連を明らかにするため、腸内細菌のみならず、口腔、気道、生殖器や皮膚に共生しているすべての微生物のゲノム情報を解析しようというプロジェクト。